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   *   *   *    麗美と名乗った彼女は、家の前で話をするのは憚れたのか、近所のファミレスに瀬乃山を誘った。 愛羅は家にいないと言い、どこにいるのかは教えてくれなかった。 夕食のピークは過ぎたのだろう、店内は空いていた。 周囲に人気がないことを確認し、そして愛羅の名前は出さずに会話した。 「失礼ですが、お姉さんは妹さんの身に何が起こったのか、ご存知なんですか?」 「ええ、その……」 チラリと辺りを見回した後、麗美はようやく聞きとれるほどの小さな声で話した。 「上司の男性にナイフで脅されて、服を破られたと。写真は、あなたがスマホを壊したのでおそらく残っていないだろうと言っていましたが」 「ナイフ……」 「……ご存知なかったんですね」 呆気にとられる瀬乃山に、うんざりした様子を隠そうともせず、麗美は溜め息をついた。 「以前にも暴力を受けたようです。あの子、何も言わないから……」 「本当に申し訳ないことをしました。護ってやれなかった私の責任です。宮武は解雇しますし、被害届を出すなら協力します。妹さんは希望の部署に異動させますので、どうか戻ってほしいと伝えていただけないでしょうか」 「せっかく社長さんがおいで下さったのに申し訳ありませんが……」 話を終わらせようとする麗美を遮って、瀬乃山は言い募る。
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