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「妹は……前の会社で上司にはセクハラされ、職場の先輩だった恋人には二股をかけられていたんです」 淡々としている分、怒りを込められた言葉に瀬乃山は動きを止めた。 「しかも、相手の女性も同じ部署にいたんですよ。結局、妹だけが悪者にされた上、部署中から陰湿な苛めを受けました」 今度ははっきりと、瀬乃山は瞠目した。 「会社に訴えましたが、聞き入れてもらえませんでした。裁判をすることも考えましたが、まだ妹は社会人1年目だったんです。早く新しいスタートを切った方が妹のためだと思い、自己都合で退職させました。会社から補償はありませんでした。……謝罪さえ誰からも、一言でさえ、無かったんです」 瀬乃山は深く項垂れた。 「妹は無愛想でしょう。そのことがあってから、すっかり変わってしまったんです。元は明るい子だったのに……。あの子から笑顔を奪った前の会社を、私は許しません。それから、あなたの会社の、その男のことも」 だから愛羅は、他人との接触を避けていたのだ。 前職での記憶が、まだ重く彼女に圧し掛かっていたに違いない。 あれは、恐怖からの行動だったのだ。 「そんなこととは知らず……ただでさえ嫌な思いをさせてしまったのに、彼女にとってはどれほどの恐怖だったでしょう……本当に、本当に申し訳ございませんでした」
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