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麗美に会社を辞めたいと言うと、理由を根ほり葉ほり訊かれた。 言いたくはなかったが、姉に再び迷惑をかけるのは自分なのだ。 観念して、麗美には宮武のことを打ち明けた。 そして、その翌日から、麗美に転職活動を勧められた。 家に一人閉じこもり、鬱々と想いを抱えているだけでは息詰まる。 それが分かっているから、あえて愛羅に課す課題なのだと知っていた。 弁当と一緒だ。 セクハラに加えて恋人の裏切りに失恋、そして長い苛めで心身が衰弱し、転職活動もうまくいかない愛羅に、麗美は家賃代わりに家事と弁当作りを課した。 家事をするには、体を動かさなくてはならないし、買物に外出しなくてはいけない。 弁当を作るためには、否が応でも毎朝早起きしなくてはならない。 愛羅が引きこもらないようにするために麗美が考えた策だということは、後に元気を取り戻してから気付いた。 「へえ、結構求人あるね。景気いいんだ」 「うん……」 それでも、今の職場に勝るところなんて、見つかる気がしない。 どうしようもない。 それでも、愛羅が会いたいのは瀬乃山なのだ。 姉にも打ち明けていない想いを抱え、愛羅は一人嘆息した。
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