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麗美は逃げろという。 逃げてもいい、という時があると。 毎日死にに行くような気持ちで前の会社に出勤していた愛羅を止めたのは、麗美だった。 誰も助けてくれない場所があると知ったあの時、麗美の言葉に救われて、愛羅は逃げ出した。 でも、今は? 愛羅は点滅するスマホに気付いて、手に取った。 清香に花蓮、そして瀬乃山から、何十件とメッセージが入っている。 そのどれも、労わる内容ばかりだ。 ……一人じゃ、ないかもしれない。 そう思い至ると、愛羅の頬が濡れた。 もう、辛い想いはしたくなかった。 今でも前の職場を思い出せば、恐怖で身が震える。 あんな想いは二度としたくない。 それだけを胸に、他人との接触を避け、身を縮めて生きていた自分。 そんな自分にでも話しかけてくれた清香や花蓮。 仕事を教えてくれた瀬乃山……そして宮武。 支えてくれた麗美や隼人。 彼らのお蔭で、ようやく立ち上がろうという気になって来たところではなかったのか。
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