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愛羅が数日ぶりに出勤すると、社長室には既に瀬乃山がいた。
「神崎……」
この人はいつも言葉に詰まる。
他の社員と面している場面をそう知っているわけではないが、こうして押し黙ることは少ないように思える。
それなのに愛羅を前に、瀬乃山はいつも言葉少なだ。
頭の片隅では皮肉交じりにそう思うのに、結局愛羅もすぐには言葉が出ず、二人は無言で向き合った。
瀬乃山は、少し頬が削げたように見える。
顔色が良くない。
仕事が忙しかったのだろうか。
それとも、宮武がこんな形で突然退職することになって、心労がたたっているのだろうか。
揺れる瀬乃山の瞳を見つめていることは辛く、愛羅は深々と頭を下げた。
「突然お休みして、申し訳ございませんでした」
「いや……助けてやれなくて済まない。本当に申し訳なかった」
頭を下げる瀬乃山に対し、愛羅は首を振った。
瀬乃山を責めるつもりはない。
助けを求めなかったのは自分だ、と思っていた。
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