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「……お蔭さまで次の会社も決まりましたし」
「もう契約したのか?」
「……はい」
愛羅は俯いて瀬乃山の鋭い視線から逃れた。
そして、意を決すると、キッと顔を上げた。
「ですから、社長、お願いです。宮武さんの退職は無かったことに」
「宮武を許すというのか?」
愛羅は咄嗟に答えられなかった。
指先が無意識に鎖骨の窪みへ向かう。
瀬乃山の視線から隠すように、そこを指で覆った。
「君が身を引くというのは、おかしいだろう」
「でも……」
「諦めるのと、許すのは違うと思う」
瀬乃山の言っていることは正しい。
それでも、この会社を、瀬乃山をこれまで支えてきたのは、間違いなく宮武なのだ。
宮武がこのことで離れれば、瀬乃山が苦しむのは目に見えている。
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