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「なぜ、社長に言わなかったんですか? 私がしてきたことを」 見上げるほどの長身は変わらないはずなのに、驚くほど小さく見えた。 隙のないスーツも、今はくたびれて見える。 もう、愛羅の怯えていた宮武とは別人のようだった。 「宮武さんが初めてだったんです。私に仕事を教えてくれたの。それに……私も社長が好きだから」 愛羅がポツリと告げると、宮武は壁を向いたまま、ふと笑った。 「ライバルを蹴落とそうとは思わなかったんですか?」 「どの道お互い叶わない恋でしょう? 社長は、椛島社長のお嬢様とご婚約されるんですよね?」 「すみません……それは嘘です」 「え?」 「お嬢様には別のフィアンセがいらっしゃいますし、社長に恋人はいらっしゃらないはずです。お二人がお会いになっていたのも、椛島社長が社長のことを気にされていたのも、全く別の理由なんです」 「……何で教えてくれるんですか?」 もう自分には関係ない。 寂しげな表情がそう物語っていた。 「宮武さんがいなければ、社長はきっと困ります。だから、辞めないでください。私からももう一度社長にお願いしてみます」 宮武は首を振ってそれを拒んだ。 そして、ゆっくりと愛羅の方を向き、しっかりと視線を合わせて口を開いた。 「ありがとう」 目尻まで下がる彼の笑みを見たのは、初めてだった。
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