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一層強くなる腕の隙間から、愛羅は涙声を漏らした。
「謝らないでください」
小さなその声に、瀬乃山はようやく少しだけ腕を緩めた。
「分かっている。君は優しいから拒まないんだと。それでも俺は、君を愛しているんだ」
愛羅が息を呑んで、体を強ばらせた。
それに気付いた瀬乃山が愛羅の細い肩をグッと掴み、呻くように息を絞り出した。
「せめて、それだけは……分かってくれないか」
愛羅は瞬きを繰り返しながら、首を振った。
「分かりません。本当に? 信じられない……」
瀬乃山の温かい手のひらが、愛羅の頬を拭う。
その止まらない流れに、瀬乃山の顔が苦しげに歪んだ。
「君を離したくないと言ったじゃないか」
「それは単に、仕事を辞めるなということかと思って」
必死で考えを巡らす愛羅の答えを、瀬乃山は一笑に付した。
「俺は丸ごと欲しいんだ。働く君も、プライベートの君も、君の全てが欲しい」
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