第1章

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「たかし。」 「何。母さん。」 自宅のリビングで母さんと一緒にお昼を食べていると、不意に母さんが箸を止め声を掛けてきた。 「働かないで食べるご飯はおいしい?」 「…どうしたの突然。」 とりあえず自分の保身のために言わせて貰えば僕は昨日まで学生だ。 焼きそばを食べ終え、ティッシュで口を拭く。 「卒業式……良かったわよね。」 「そうだね。」 「ね。まさか息子が代表を務めていたなんてね。お母さん知らなかったわ。」 「どうせ仕事で来れないかと思って言わなかったんだ。」 それで無理して仕事を休んでもらうのも悪いというのもある。 「そうね、私が来るのは三者面談の時くらいだものね。」 「高校生にもなって親に授業参観とか来てほしいとか思わないからね。」 「ええ、いつもたかしはそういうの事後報告なのよね。いつも『今日授業参観だったよ。』ってしれっというから母さんいつもビックリしてたわ。だから今回は田中くんに協力してもらったのよ。」 「田中くんて、同じクラスの?」 「ええ。アドレスを交換しておいたの。卒業式の日取りを決まり手次第教えて貰うために。」 「いつの間に…。」 「回覧板回すときにね。事情を話したら涙ながらに了承してくれたわ。いい子ね。」 「アグレッシブだね二人とも。」 「アグレッシブとは違うわね。こう……サプライズ好き っていうかね。」 「サプライズ好きね……でもさ壇上に上がったときに『キャー!たかしぃーー!』は止めてくださいよ。」 「興奮しちゃってね。ほほっ。」 口元を隠して母さんはわざとらしく笑った。 僕が母さんを学校行事に呼ばないのはこういうとこがあるからというのも実はある。テンションが上がりやすく、行動が突発的な母なのである。 「……で、さっきのはなに?」 「さっきの?」 「働かないで食べるご飯はおいしい?」 「私は働いてるわ、あなたと違って。」 「いちいち棘があるんだけど。……つうか、僕昨日まで高校生だよ。学ぶことがいわば仕事でしょ。」 「でも、もうそれも昨日で終わり。つまりきょうから晴れてニートね、このすねかじり。」 なんでちょっと嬉しそうに言うんだこの人。
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