恋なむ凍て 死んぬるか、否 芽ぞ宿しつる (字余、乃至異形式)

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<季題> 凍つ、併せて芽 <季節> 冬(初冬を除く)、晩冬を念頭に 恋: 「生殖」概念に基づいた上で、その下位概念「性(即ち有性生殖)」を広く全般的に象徴するもの。断じて一般通俗的恋愛とは義を同じくしない。むしろ性別・性差に拠りながら同時にそれらを超越した「実存的関係性」。 凍-つ・死-ぬ: 句での活用は共に連用形。また共に直後の「ぬ」に掛かる。各々独立した動詞だが、この句では双方併せて「凍死する」の意も持つものとする。 「凍つ」は「凍える」・「凍る」の意。展開して「凍りつく」。 「死ぬ」は字義通り生体の死を表すが、生命現象から展開し象徴的に「永劫断絶」を示唆する。「死-ん」は「死-に」の音便、また「死-に+ぬ」の完了表現は中世以降のもの(古代には「死ぬ」の語自体が完了も含意した)。 なむ・ぬ-る: 専ら自動詞に付き自然状態完了を表す助動詞「ぬ」の、係助詞「なむ」による係結び。係結びは強調・詠嘆を表し、係助詞は主格格助詞の役割を併せ持つ。現代語散文ならば「~さえも~しまった」等の意となろうか。 か: 係助詞。疑問・不定・反語を表し、中世以降は文末用法が終助詞化。この句では疑問かつ反語か。 なお、文法・文脈上この語において擬終止が生じるため、不自然ながら音読時の視覚的補助を図り、直後に読点を明記した。 否: いな。否定・拒否の意(現代口語で「いいえ」)。感動詞故、独立語であり単独で文末にも位置し得、この句では中句切れを示す(即ち明確な五七調)。 直前の読点による区切りと併せ、音読朗誦の際には俳句のリズム維持について厳重注意せよ。 芽: 分類学上の顕花植物(種子植物)にまず限定し、木本ならば花芽を、草本ならば新芽を指すものとする。展開して、生殖を通した「新生・再生」と「(生の)契機」の象徴。 想起するにあたっては実際の顕現がなくとも好い。即ち、「芽」自体もまた「契機」として草木に「宿され」ている、と解釈することが可能。 宿-す: やど-す。字綴通りには「宿泊させる(宿を貸す)」の意が第一義、転じて「留まらせる・含み持つ」の意を併せ、さらに転じ「(子を)孕む」の意も併せる。言うまでもなく、目的語は「恋」。 この句では、「恋(生殖)」から展開した「孕む」の意こそを第一義とし、「(暫定的に)滞留させる」を第二義とする。これらが、暫定的な留保であり、かつその終結は他でもない「恋」の顕現であることに、着目すべし。
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