【番外編】猫の舌

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 バレンタインの売り場に紛れた男っていうのは、鳩の群れの中の鴉みたいなものだな。  自分が目立っていることは感じるが、ごった返すチョコレート売り場には全くそぐわないのだからしょうがない。  会社の帰りなのだが、服装が自由だから黒の長袖のVネックのニットに、少しくたびれたボア付の黒のモッズコートを羽織っている。寒さには強いので前はこの高級な百貨店に入ると開けてしまった。  この空間の中では異質で、招かれない存在なのだろうが、目的を果たすまでは帰るつもりがなかったので、色取り取りのチョコレートの間をゆっくりと歩く。  どれでも別に構わないのだ。  俺の恋人は控え目で、俺が選んで買って来たものならば、例えコンビニの板チョコでも喜んで受け取るだろう。そして、そんなのが自分にはお似合いだと決めつけている。  一人で居たのが長いからイベントには飢えていて、クリスマスも正月も嬉しくて堪らないのを必死に隠しているのが可愛くて、でも、自分から強請ることは決してしないのだ。  年下の恋人が自分に寄り添っていてくれるだけでいいと、負担をかけるまいとしている。いや……それは、自信のなさの表れなのだが。  だから。  こんな風に甘やかしてしまうのだろう。
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