330人が本棚に入れています
本棚に追加
小さな箱の中に整然と並べられたチョコレート。
猫の舌を模って作ったとされる7~8センチのチョコレートは薄く、両側が少し膨らんだ形状になっていた。表面にはメーカーの刻印があって、箱にはチョコレートを咥えた猫の絵がある。
俺はゆっくりと微笑んだ。
玄関の鍵はかかっていなかった。
危ないと何度か言っているのだが、むさいおっさんなんか誰が襲うんだと取り合って貰えなかった。そのうち、不意打ちで襲って教え込もうと思っているのだが、どうにも学の泣き顔には弱くて実行出来ずに居る。
「ただいま」
靴を脱ぎながら言うと、足音が聞こえて学が近づいてくる。
「おかえり」
何かあった時の顔だなとじっと見ると、学の顔が赤らむ。
「あ、あの……」
学が恥ずかしそうに俯いた。
開いたリビングの扉から、いつも通りに美味そうな飯の匂いがする。
その中に微かに甘い匂いを感じた。
「け、ケーキ作ったんだ。ば、バレンタインだし……」
「いいね。これは俺から」
高級な百貨店の袋を見て、学の顔が驚きで固まる。
「え?え?お、おれに?」
「うん」
「わ、わざわざ?誰かから貰ったとかじゃ……」
最初のコメントを投稿しよう!