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「わざわざ、だよ。会社の子の義理チョコは、誤解されるからって他の人にあげて来た」
「そんな、別に……」
「学は見たら買いに行けるの羨ましいとか、思う……よね?」
痛い所を突かれて学が動揺する。否定しようと開いた口が閉じて目が泳いだ。
「でも、いいのに」
「そうしたかったから、そうしただけだよ?チョコレートが食べたいなら、来年からは持って来るけど」
「い、いらない!」
かさっと紙袋の音がして、学が頭を俺の肩に乗せて来る。
髪を撫でると、安心したような吐息が漏れて、微笑みが学の口元に浮かぶ。そうすると、その顔は俺のとても好きな顔になった。
「これだけでいいよ」
囁く声に、俺は微笑む。
「そ?」
「うん」
リビングのソファーに学を引っ張って行くと用意してあった料理はそっちぬけで、学が嬉しそうにチョコレートの包みを開いて行くのを眺めた。
コートを脱いで隣に腰掛ける頃には包みは解かれて、綺麗に並んだチョコレートを見ると、学の笑顔が大きくなった。
「猫の舌の形なんだって」
「美味しそうだ」
俺は無造作に猫の舌だというそれを取り上げると、咥えて学の前に差し出した。びしっと音を立てて学が固まる。
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