第七章:束の間の幸せ・前

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       1.  生徒の大半が、夏服から中間服に袖(そで)を通し始める十月の初旬。 瑤子(ようこ)の通う高校の文化祭は、毎年その頃に行われていた。  今年も例年通り、年に一度のお祭り騒ぎは、異常に盛り上がる者と それを冷めた目で見る者とに、はっきり分かれていた。  瑤子の所属する美術部は、ひと教室を借りて、展覧会を開いた。 皆、あわてて短時間で仕上げた作品を提出する者が多かったが 瑤子は、春先から丹念に仕上げた紫陽花(あじさい)の油絵と、夏休み中に描いた仔猫の水彩画を、出展した。
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