プロローグ

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私には中学の時から憧れている人がいる。 その人は私には遠い存在。 同じ人間なのかと疑いたくなるほど、とても美しい人。 愛と死、天使や悪魔、おとぎ話のような神話の世界を狂おしく唄う不思議な魅力を持った人。 彼の魅力に多くのファンが魅了されている。 私なんかには絶対手の届かない遠い世界の人だ。 私があの人に会える方法と言えば、チケットを買い、コンサートへ行かなければ会いには行けない。 あの人のコンサートを初めて観た時は感動はしたけど、広いコンサートホールの後ろの席ではあの人はとても遠くて…余計に手の届かない想いを感じさせた。 遠くて小さくて、お米の粒程の大きさでしか見えないあの人を、もっと近くで感じたくても、人気が上がって行く度にどんどん遠くなっていった。 あの人は沢山のファンを誘惑の視線で熱狂させて、その歌声で引き込んで魅了してしまう。 妖艶で美しく、鋭く刺す様な目をしたあの人は、とても魅力的な人。 とても私の手の届く人ではない。 でもいいの、あの人の歌を、あの人の作り出す世界観を感じる事が出来るから。 それで満足。 どうせ私は平凡な普通の人間なのだから。 夕方、出かける支度をする。 今夜も仕事…。 私は夜働いている。 いわゆる水商売、高級クラブのホステスをしている。 誰かが言った、ホステスは女優にならなければいけない…と。 田舎育ちの地味だった私の事など誰も知らないのだから、理想の女の子を想像して架空の自分を演じた。 本当の私の事は誰にも知られたくないし、話したくなかった。 だからこの横浜でまったく知らない人達に囲まれて、知らない誰かを演じて生きている。 嘘つきは嘘がバレるのが一番恥ずかしい事だと知っている。 だから完璧に調べて、下調べをしっかりして嘘を塗り重ねている。 嘘の上塗りを何年も続けていると、本当の私は何者なのか自分でもわからなくなる。 仕事上いろいろ聞かれたりするのは仕方ないけど本当に嫌だった。 いろいろ詮索されたくない、上辺だけの関係がいい私には、夜の世界が合っている。 作り上げた嘘の人生を生きている…ただなんとなく…毎日を生きている。 それが私の人生だ。
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