隣人

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「はい」 『今晩は。回覧板を届けに来ました』  元カレとはいえ、今はお隣さんで同じ町内だ。 「少々お待ち下さい」  意識せず、対応しよう。避けては通れない道なのだから。 「お待たせしました」  ゆっくりと扉を開けると灯りの下、爽やかな笑顔があった。 「夜分遅くにすみません。でも会長さんが早く回して欲しかったみたいで」  そう聞いて、つい口元を押さえてしまう。 「どうかしましたか?」 「いえ、すみません。多分、回すの忘れてたんじゃないかなって。よくあるんです。まだ町内会自体も出来たばかりだし、会長さんも慣れてないみたいで」  だからこそ御近所同士、協力し合わないといけない。これから出来ていく町なのだから。 「そうなんですね」  元カレが再び微笑む。互いに過去に触れない様にしていこうと伝わって来る。 「御主人は?」 「あ、泊まりなんです」 「そうなんですか。実はうちのも実家に行っていていないんですよ」  何ともない日常会話。 「では」 「はい。おやすみなさい」  そう思っていたのは……私だけだった。
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