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「ねぇ。本当に帰らなくていいの?」
シティホテルの一室。窓辺に佇む女は、自分を背後から抱き締める男を見上げた。
「君こそ……旦那には実家に泊まるって言ったんだろう?」
「ああ。あの人はもう私に興味ないから大丈夫」
「そんな……新婚だろう?」
不思議そうに問われ、ふと表情を曇らせる。
「何かね……私じゃなかったんだって」
「どういう意味?」
「体の相性。残酷よね」
躊躇いがちな告白。悲痛な横顔。衝動が抑えられず、男は女に口付けた。
「また会えるなんて」
「こんな偶然あるのね」
絡み合いながらベッドに倒れ込み、服を脱がしていく。もどかしく甘い時間。
「あの時みたい」
「え?」
女は可愛らしく、くすくすと笑う。昔の面影を垣間見た気がして、思わず男も微笑んだ。
「一番、最初。ね? 憶えてる?」
潤んだ瞳で見つめられ、男はゆっくりと頷いた。
「勿論。だって初めてだったんだ」
とうとう泣き出してしまった女の額に優しくキスをする。
「忘れられないよ」
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