隣人

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 隣の芝生は青い。本当にそう思う。 「今度、引っ越して参りました……」  玄関にいるのに足元に大きな穴が開き、すっと落ちてしまった様な感覚。  週末の昼時。可愛らしい女性の後ろに立っていたのは……元カレだった。  急な飲み会が入り、帰宅が遅くなるのはいつもの事だった。 「うぃー。旦那様のお帰りだぞーっ!」 「静かにしてよ。御近所迷惑でしょ?」 「ん? 誰も住んでないのら~」 「いつ引っ越して来るかわかんないんだから、慣れておかないとでしょ!」  結婚して三年、不満などなかった。でも実は、ずっと隠している事がある。  絡み合う視線。次いでキスをしようとする気配に、さっと背後に回る。 「ほら明日も早いんでしょう? お風呂入って! そして寝る!」 「んー……わかったぁ」  酔っぱらって、くねくねしている主人の姿に目を細める。  嫌いになった訳じゃない。なのに最近、受け入れる事が出来ない。  セックスレス? まだ二十代後半なのに?  だけど元々そういった行為が、そんなに好きではなかった。  初体験だって、周りの友達に比べたら遅かった。
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