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あの後、何を話したかなんて憶えていなかった。
「お隣さん、新婚さんなんだな」
「え?」
寝室の鏡台の前、髪をとかしていた私は我に返る。既にベッドの中にいる主人は天井を見上げながらも、今にも寝てしまいそうな横顔をしていた。
「結婚を機に家を買う。うちと一緒だな」
そう。この新興住宅地に将来的な事も踏まえ、一戸建てを購入した。
ちょっと不便だけれど互いの実家にも近く、夫婦揃って車の運転も好きなので、今の所、生活に支障はきたしていない。
それに今後、開発も進むらしいので、先物買いをしたと思っている。
「住人が増えるのは色々な意味でありがたいよな」
私達が住んでいる家の近所は、まだ買い手のついていない空き家も多い。防犯面でも一家族増えただけで心強いといえば、心強いのだが……
ふと鏡の中を見れば、いつの間にか寝息を立てている姿が映る。通勤に時間がかかる為、疲れているのだろう。最近の平日は、いつもこのパターンだ。
それでも愚痴一つ言わないのは、本当に尊敬している。
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