佐藤 隆

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 秀樹の声は大きくなって、額には汗をかいていた。  「そもそも人は生まれた時からみんな違うんだよ。みんなが良いとこを持っていて、悪いとこも持っている。そんな中互いに助け合って生きていけばいい。お前言ってたじゃねーか、このソーティング・プロジェクトはただ地球に残る組と火星に行く組を分けるための手段でしかないって。おれはただ運が良かっただけだ。uselessnessもusefulnessも関係ない。おれらはただ同じ親から生まれた。俺が兄でお前が弟だ。その事実だけで十分だと思わないか?おれらは互いに同じ1人の人間として生きてるだけなんだ。」 「・・・」 「・・・」 「そんなのただのきれいごとだ。おれはそんなの納得しない。」  秀樹は隆をにらんだ。  「きゃーーーーー!」  隆と秀樹の間をさえぎるように、洗面所の方から智子の叫び声が聞こえた。隆は急いで洗面所の方へ行った。  智子はお風呂場の中で、濡れた恵美を抱きかかえていた。  「急いで救急車を呼んで!救急車!」  智子から言われて隆は秀樹に向かって叫んだ。  「今すぐ救急車を呼べ!電話しろ!」  智子は泣きながら恵美の名前を呼んでいた。しかしもう恵美は息をしていなかった。5分ほどして救急車が到着した。  いそいで病院へ搬送されたが、もうすでに手遅れだった。恵美は4歳という若さでこの世を去った。  病院で、冷たくなった恵美の前に隆と秀樹、急いで駆け付けた達徳が立っていた。智子は恵美にすがりつきながら泣き崩れていた。  達徳は泣くまいと必死に歯をくいしばっていた。隆も自然と涙が出た。秀樹だけは感情を押し殺したかのように無表情だった。  恵美の死因は溺死だった。恵美はよほど暑かったのか、智子にも言わず、1人でお風呂に水を張り泳いでいた。そのときおそらく何かがきっかけでパニックに陥ったのだろう。助けを呼ぶこともできず、溺れてしまった。智子は少しでも目を離してしまった自分を責めて泣き続けた。 8月4日  恵美の葬式は家で密葬という形で行った。智子の顔はすっかり生きる気力を失っていた。葬式が終わると達徳も疲れ切った表情であったが、智子を慰めていた。
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