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佐藤 隆
7月10日
今日は高校2年1学期の終業式の日。つまり明日からは夏休みになるのだが、隆はそれをあまりうれしく思っていなかった。別に大した予定が入っているわけでもなく、だらだらと2ヶ月近い休みをどう費やそうかと頭の片隅で考えつつ、朝食を食べながら朝のニュース番組を見ていた。
「昨日7月9日、ソーティング・プロジェクトによる死者は1500名。うち528名は、アメリカ、ワシントンD.C.のホワイトハウス前でデモを行った大学生で、アメリカ政府は陸軍を動員。激しい銃撃戦の末、15分後にデモはおさまり、デモに参加した学生は全員死亡。一方アメリカ陸軍はすべてロボット兵が前線で戦ったため、死傷者はゼロとのこと。」
3日前にソーティング・プロジェクトが施行されて以来、ニュースでは毎日このプロジェクトによる死傷者や事件を報道している。
火星移住計画が発表されて以来、火星に移住する人間と、地球に残る人間を分類するプロジェクトが始まった。それがこの「ソーティング・プロジェクト」である。このプロジェクトに抵抗、反対するものはなんのためらいもなく、人口削減のために殺される。
火星に移住する人間と、地球に残る人間の分類は「ヒューマニティー・スキャナー」という機械でスキャンされることで行われる。火星に行ける人間が「usefulness」、地球に残される人間が「uselessness」。つまり「使える人間」と「使えない人間」とに分けられる。
3日後から、ここ東京でもスキャニングが始まる。3日後に市役所に行ってヒューマニティー・スキャナーを持ったロボットにスキャンされ、「uselessness」か「usefulness」かいずれかの印を腕に押されなければならない。
隆はニュースを見ながら物騒な世の中になったと感じながらも、こんなことが現実として実際に起きているのかということを心の片隅では信じることができずにいた。
隆は自然と頭で考えるものと心で信じるものを分けていた。なぜだかはわからないが、幼いころからそういうふうに物事を理解していた。
隆の前では3歳年下の弟である秀樹が朝食を食べながら急いで宿題を終わらせていた。
まだ4歳の妹の恵美は母親の智子と一緒に幼稚園にいく準備をしていた。
父親の達徳はまだ、寝室で寝ている。いつも家を出るのが一番遅い。
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