佐藤 隆

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 隆・秀樹と恵美は父親が違う。智子と前の夫である隆之助との間に生まれたのが隆と秀樹で、その後隆が10歳の時に2人は離婚。その約1年後に智子は今の夫である達徳と出会い、その間に生まれたのが恵美である。  隆も秀樹も別に母親のことを嫌ってはいなかった。達徳も2人の息子のことをかわいがっていたが、秀樹と達徳の間には、壁というか溝というか、明らかに隔たりができていた。  隆之助は研究者であった。隆も秀樹も、そんな物知りな隆之助の話を聞くのが好きであった。隆之助の話を聞くのは、自分の知らない世界がどんどん見えてくるような感じがして、頭が良くなっていくような気がしていたのだ。  しかし研究が忙しく、家に帰ってこないことも多々あった。だんだんと家族とコミュニケーションがとれなくなったのが、智子と離婚した原因であろう。  隆之助は今アメリカで研究を続けている。隆は隆之助と今でもメールを通じて連絡を取り合っている。智子もそのことは知っていた。  みんな今のこの世界の動乱がどうこうよりも、自分の世界を生きていくことで精いっぱいだった。  隆は一番に家を出た。学校まではバスに乗っていく。バス停までは徒歩一分だ。バスを待つほんの数分でも、7月の刺さる日差しの下では耐えがたい。  バスが来て隆は乗り込んだ。人はいつも通りで、多くも少なくもない。クーラーの効いたバスの中は夏のオアシスだった。  「いやー、今日も暑いな。このくそ暑い中、体育館で校長のあのくそ長い話を聞かなきゃならないと思うと、それだけで倒れそうになるぜ。」  唐突に話しかけてきたのはクラスメイトの孝雄だった。隆は毎日学校に行くときこのバスで孝雄に話しかけられる。隆から孝雄に話しかけたことは一度もない。  「そうだな。」  隆は受け流すように返事をした。  「お前は、夏休みはなにするんだよ」  孝雄はなぜかうれしそうに隆に聞いた。  「別にこれといってすることはないね。」  隆は孝雄とあったばかりのころは、朝から孝雄のテンションについていかなければならないのが、面倒くさかったが、いまは慣れたし、おかげでうまく受け流す術も身につけることができた。
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