2.想うということ

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せめて早く話を終わらせようと口を開いた拓馬の言葉を遮って、基樹は口を開いた。 「ごめん、俺が、あんな事言ったから」  自分が思いを伝えた時に拓馬は断らない事はわかっていた。わかっていた上で隠しとさなかった。自分は、最低な人間だ。  こんな自分が、隣に立っていいはずがない。 「無かった事にして欲しい」 「ちょっと、俺の話ちゃんと聞いて」 「聞きたくない!」  これ以上口を開いたら、また涙が零れてしまいそうだった。こんなに泣き虫じゃなかったはずなのに、拓馬の前ではどうにも弱い部分を晒してしまう。いっそ、自分を、嫌いになってほしい。 「も、いい、から」  傍で笑うだけで満足していたあの時に戻れたらどれだけ幸せだろうか、なんて夢のような思いを巡らせる。戻って来ない時間を求めても虚しいだけだなんて分かっている。  これ以上、醜態を晒す前に逃げてしまおうと背を向けるが、足は進まなかった。何かが自分を先に進ませないのだ。それが自分を掴む拓馬の腕のせいだと気が付いた時には、逆に腕を引かれていた。力任せに歩かされ、足がもつれる。 「ちょっと、待って」 「お前が話聞かないなら、俺だって聞かない」  乱暴に扉を開いた拓馬に、教室の中へと押し込まれた。後退る体を壁へと押し付けられて、瞳を覗き込まれる。  耐え切れずに視線を逸らそうにも、拓馬が頬に当てた手がそれを許さない。 「なんで、決めつけるんだよ。お前だけ一方的に言い逃げして、俺はどうしたらいいわけ」  その言葉と同時に、掴まれていた手首を解放される。涙を拭おうと握りしめると、すぐにまた掴まれた。  白くなるほどに握りしめていた指を解かれて、拓馬の細い指にからめとられる。 「そんなの――――」 「知らないなんて言わせない」 知らない、と言おうとしたことを読まれる。  心は正直だ。拓馬の声に心臓は脈打ち、頬は熱を持ち、ボロボロと零れていた涙がとまる。 「基樹」  射抜くような視線と、少し震えた低い声。 「お前が、俺の事嫌いでもいいよ」  こつ、と額同士が触れ合う。 「でも、俺は逃げない」  そんな事を言われて、基樹まで逃げられるはずがなかった。
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