1249人が本棚に入れています
本棚に追加
/211ページ
あの日、確か朝からの土砂降りで。空は真っ暗な雲に覆われていた。
ーーーそう。確か停電になったんだ。
昼頃には雷が鳴り始め、稲光と雷鳴がピークに達した辺りで、平太の異変に気が付いた。
ブルブルと小刻みに震え出した平太の顔は真っ青で。僕はお手伝いさんの名前を呼びながら、震える平太をずっと抱き締めていた。
お手伝いさんはすぐに来てくれて、ほどなく部屋も明るくなった。
だけど、平太は。周りが見えていないみたいに僕にしがみ付いて、うわ言のように母親を呼び続けていた。
「お、かあさん、おかあさん、お母さん、お母さん行かないでっ」
僕はショックで。
平太のそんな姿を見たのは初めてで。
子供の僕には、怯える平太にしてやれる事なんてなくて。
「へ、い、ちゃんっ、僕、僕がいるよ?ヒナがいるよ?ヒナが、ずっと側にいるから、大丈夫」
しがみ付いて震える平太を抱き締めて、彼が眠りにつくまで声をかけ続けていた。
いつの間にか平太の隣で一緒に眠ってしまったらしい僕は、連絡を受けて出張先から飛んで来たおじさんの声を、夢うつつで聞いた。
「…………彼女が出て行ったのは、大雨の日でした。雷のせいで停電して、真っ暗な中稲光りと雷鳴に怯える平太を置いて、出て行ったそうです。僕は仕事で、家に帰るまで何も知らなかった…………」
絶望と後悔に塗れた、絞り出すようなおじさんの声を聞いた僕は。
これから先平太を決して一人にはしないと、心に誓ったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!