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安物スーツに抱っこ紐。ネクタイはヨダレでベロベロだ。 ああ、これ……彼女から貰ったお気に入りの一本だったのだけれど。今となっては涙を誘う物でしかない。 ポロリと溢れる涙が、胸で寝息を立てる愛おしい彼に落ちないように。そっと目を閉じる。 止まれ。 止まれ………。 「ヒナっ!!」 マンションのエントランスから出て来た親友の姿に、何とか踏み止まっていた筈の涙腺が決壊した。 「………~~~っ平太ああぁ。麻耶ちゃんが、麻耶ちゃんがぁ。太陽君と僕を置いて出て行ったっ」 平太の胸に縋りついた衝撃で、太陽君が目を覚ましてしまった。 「………ひっ、ひっく。う…う………うわあああああん」 「たっ、太陽君~~~っ。泣がないでえぇぇ。うえっ、太陽ぐんんーーー」 ーーーーーー早朝のエントランスに響き渡る大絶叫。 この迷惑極まりない親子にも動じない男は、溜め息を一つつくと二人を静かに自宅まで連れ帰った。
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