降りしきるは、枝なりて

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 冬の境内。春に一番賑わうこの神社が、今はひっそりとしている。  武太はそれに心地よさを感じながらも、隣で杖を突きながら、えっちらおっちら歩く大叔母に気を向ける。  大叔母は「梅」という名で、母が18の時から面倒を見てくれたすごい人である。祖父母のお葬式の時、母に声をかけてくれたことを僕は感謝をしなければならない。  父が事故でなくなってからも、梅ばあは僕達のために色々としてくれた。母が今も元気にいられるのは、梅ばあのおかげだ。  そんな梅ばあが急に倒れたのは、昨年のことだ。無事に退院できたものの、先は長くないだろうと医者は言っていた。  前よりも歩けなくなった梅ばあに心の底では不安を感じつつも、先月前よりも顔色が良いことに、ほっとはする。  手を取りながら背中を支えてやれば、まだ歩ける。この年でこれだけ出来れば御の字だと、母は微笑みながらよくこぼしていた。 「よっこい、しょ……と、やれやれじゃぁ」  ようやく腰を下ろした場所は、梅ばあの定位置。 春になれば見事な花を咲かせる、枝下桜の真下にあるたったひとつのベンチ。  数年前に新調されたそれには、神主さんの計らいか、前にはなかった背もたれがついている。  梅ばあが腰を下ろす前に、簡易式の座布団を敷けたことに満足しつつ、武太は空を見上げる。  当然冬なので、見えるのは曇り空から降り注ぐ枝だけである。 息を吐いてみるが、白くはならない。  冬なのにそう寒くはないのは、風も吹いていないからだろうか。 「そうだね、やれやれだ……梅ばあ、寒くはないか?」 「風がないだて、寒くはないがなぁ」  そう言って梅ばあちゃんは、肩にかけている桃色のカシミヤストールをゆっくりと体ごと抱き締めた。 「それに武ちゃんがくれた肩掛けがあったかいでのぅ」  お天とぅさんが隠れとってもポカポカじゃろて。  そう言って自分の二の腕辺りをぽんぽん、と叩く。 確かにそれは今年の誕生日に、武ちゃんこと武太がプレゼントしたものである。母親と一緒に「あーでもない、こーでもない」と言いながら決めたものだった。 「気に入ってくれてよかった」  武太は満足そうに、はにかむ。  それをじぃっと見ていた梅ばあが、何かを納得したように「うんうん」と頷いた。そして、枝だけになった枝下桜を見上げて、細い目をもっと細めた。
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