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「今年もええように支えが出来とるがな」
「そうだね、どうやら今年は棚を組んでるみたいだけど。支柱だけじゃおっつかなかったのかなぁ」
なにしろ、この桜は身に余るほど大量の花をつける。そのうち花の重みで折れてしまうのではないかと、いうくらいに。
「わたしはぁ今の方がええのぅ。傘のようで、ええのぅ」
梅ばあは嬉しそうに笑うとほぅとため息をつく。
「花が咲いたら綺麗じゃろなぁ」
その言葉にドキリとした。まるでその言い方は……。
「……咲いたらおぶってでも僕が連れてきてやる」
武太の低い声に、梅ばあはゆっくりと微笑んだ。
そして武太の方へと、顔を向けた。
「それよりも、嫁さんを連れて来んかい。今年の桜さんは一等綺麗なはずじゃぁ」
「……何でわかるの」
「そらぁ、70年も相手してもろうとるでのぅわかるがなぁ。今年は一番の満開じゃぁ」
「だったら尚更、見ないと。ね、梅ばあ、今年は僕と一緒に見行かんか」
梅ばあはほんの少し首をかしげると、武太の方へと手を伸ばす。
「嬉しいのぅ……そんな必死にならんでもええがなぁ」
梅ばあはまっすぐ伸びない腕を武太の頭に向けたが、すぐに届かないとわかったのだろう。武太の肩に手をのせると、あやすように叩いた。
「大きくなったのぅもう、届かんわ」
「梅ばあ、ボケた振りすんな。はぐらかさんといて」
ちょっと照れつつも、武太は梅ばあの目を必死に見る。
今逸らしては、いけない気がする。
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