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「要らんとこにきぃつくんは父親譲りかのぅ」
「梅ばあのこと好きだからね、きぃつくよ」
ほぅかね、と梅ばあは嬉しそうに笑う。そして梅ばあは空に目を向けると、口を開いた。
「武ちゃんは優しいのぅ……昔は、よぅ口説かれたもんじゃが、誰かの嫁になろうとはとうとう思わなんだなぁ」
確かに梅ばあは独り身だ。
大層モテていたのに独り身なのは、忘れられない人がいると言う話だ。
「忘れとうもなかったし、約束したからのぅ」
「……約束?」
武太が尋ねると、梅ばあは頷く。
「あの人と。もしも生きて帰ってこれたら、この桜の下で、桜の咲く頃に逢おう、ゆうてな」
それはきっと、戦時中の約束だ。
「ずいぶん身勝手な話だね」
生きて帰れる保証は何処にもないのに。
棘のある言い方に、梅ばあは何も言わずに武太の手を取る。
「ええんじゃ、わたしが勝手に頼んだんじゃよぅ……少しでも必死に生きて帰ってきて欲しくてのぅ」
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