降りしきるは、枝なりて

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「わたしが枝が雨のようやゆうたら、あの人は傘を差してくれてねぇ」  次は桜が降ってくるときに、差してくれるゆうとったわ。  梅ばあはホケホケと笑いながら言うと、ふと声を詰めた。そして、「ほぅじゃった」と何か納得したように呟いた。 「よぅやっと、あの人の最後の言葉を思い出したわ」 「……何て言っていたんだ?」  武太は促すように言う。梅ばあはいつも言っていた。肝心なことを忘れてしまった、と。  きっと、思い続ける事が辛くて忘れてしまったことだ。……悔やんでいることだ。 「そうじゃぁ、あの人は最後にゆぅとった……帰ってこれんかったら、神さんに頼み込んで桜の下で待っとるって。桜をたくさん咲かせるように、手伝いながら待っとるゆうてた」  梅ばあは、なおも続ける。気のせいかもしれないが、武太には今隣にいる梅ばあが、18の少女のように思えた。 「だから、次に生まれ変わるときは、どんな姿でも一緒にいようって」  不思議なことに、今まで年寄り特有の間延びした話し方も、染み付いた方言もそこにはなかった。  凛と澄み渡るような、しっかりとした声をしていた。
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