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「梅ばあ?」
視線を梅ばあに戻すと、梅ばあは笑ったまま涙をこぼしていた。
どうやら泣いていることには気がついてないらしい。ずっと桜を眺めたままだ。
「待ちぼうけて居るんは、どっちじゃろなぁ」
さっきは夢だったのかもしれないと思うほど、いつも通りな話し方に武太は目を伏せる。
でも、梅ばあの涙が現実だったと語る。……あの凛とした声は、僕の妄想だったのかもしれないが。
「……もうちょっと待たせても、文句は言わないだろ」
「そうかのぅ」
どっちが待ちぼうけているのかわからないが、別に待たせてもいいだろう。
「梅ばあを困らせたんだ、それくらい我慢してもらわないと」
「ほぅかのぅ」
「梅ばあ長生きせんと皆が寂しい」
梅ばあは、皆のもう一人の母親のようなものなのだ。
そのくらい許してもらわないと困る。
「あとさ、春には彼女と桜を見に来る約束するよ……だからもしも」
本当にもしもの話。
「もしも梅ばあが僕らと一緒に桜を見れんくっても、彼女と母さん連れてくるまで桜の下で待ってて欲しい」
きっと、二人で一つの傘をさして桜の降りしきるなか寄り添っているのだろう。そうであって欲しい。
「梅ばあが一緒に居られんくなった最初の年の桜の季節だけの約束じゃ」
だから、あえて約束する。
「その人と一緒に待っててよ」
梅ばあは呆れたような、照れているような声を漏らす。
「ほんとに、困った子だねぇ」
そう言って、梅ばあは頷いたのだった。
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