第1章

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先輩に触れるたび 深みにはまっていっているって 気付いていた。 草間さんを疎ましく思ったり 先輩の肌に印をつけて 牽制させるようなことして 独りよがりだって、 独占欲なんて出せる立場じゃないのに それでも 先輩が自分の手を受け入れるから 欲は深くなるばかり。 ある夜 『お父さんが、帰って来なさいって』 母親からの留守電を聞いて 足元が崩れるように感じた。 色々ばれた。 そんな確信をしていた。 「……」 おでこを押さえて深く息を吐き出した。 避けて通れない道を用意されている。 もともとその道を歩く事に抵抗はなかった。 ただ、今は こんなに後ろ髪引かれる気分なのは 他でもない、先輩の存在が あまりにも身近になり過ぎていると 認めざるを得ないから。 滅多に見せない笑顔とか 裾を引く手とか 指を抜ける柔らかな髪とか 全部 全部 胸の奥にぐっとくる。
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