第1章

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「4月になったら戻って来なさい 話は全て済んでいる」 「……」 いつ、言われるのだろうと思っていた。 だからそんなに驚かない。 「3月末まで出社します」 最後の悪足掻きだ。 「……」 父は一瞥し、鼻から息を吐き出した。 この話は部長レベルで止められる。 いなくなるのを他の人達に知られるのは4月に入ってからだ。 負担の残る仕事は引き継ぎをすることになった。 配置換えもあって、その引き継ぎは情報共有の一部に紛れ特に怪しまれることもなく、3月末でめどのつく仕事は可能な限り受け取った。 先輩とは会議で顔を合わせる程度になる。 延びた髪をまとめ、きちんと化粧をすれば 誰だって振り向くくらい綺麗になった。 「木崎さんて、もともと綺麗だったけど なんか女性っぽくなったよな」 そんな勝手に耳に入ってくる言葉にいちいち反応していても仕方ない。 「飯行かね?」 急に現れた小川にあからさまに嫌な顔をしてしまった。 「そんな顔すんなよー。ちょっと休めよー」 「休んでるよ」 「嘘つけ、最近ずっと休日出勤してるだろ?」 「何で……」 何で知ってる。 そう言いかけて口を噤んだ。 「いいから、飲みに付き合えよ」 小さく溜息を吐く。 「……8時過ぎでいい?」 「おう」 小川は漸く自分の部署へ帰って行った。
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