第1章

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「お疲れ」 「お疲れ様です」 久々下のフロアに降りて来た初見さんと廊下で遭遇した。 「どう、引き継ぎ順調?」 声を落とした初見さんが小さく顔を傾ける。 「はい」 「そ……」 「それ、うちの部長にですか?」 手元のファイルを指して問うと「ああ」と頷いた。 「珍しいですね、自らこちらに出向くなんて」 「うちの有能な秘書がダウンしたので仕方なく」 「……え?」 「インフルっぽいって昨日病院で言われたらしく、今頃また行ってるんじゃん?」 「……」 「これ、渡しておいてくれる?」 「ええ、勿論」 差し出されたファイルを受け取る。 初見さんの目がじっと瞳の奥を見るようにこちらに向いていた。 「……初見さん?」 「……ん、いや」 表情を崩して視線を落とした。 なんとなく先輩の事だろうとは思った。 「まぁ、じゃ元気で」 「はい」 ぽん、と小さく肩に手を置かれ初見さんは去っていく。 規模は違えど同じ境遇からか、彼は自分に対して気遣いというか気にしてくれているところがあった。 それを素直にありがたいと思う。 そして、些細な噂や好奇の目を少しも気にしない姿勢を少し羨ましくも思う。
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