第1章

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翌日昼過ぎに先輩からメールがきた。 『羽山うちに来た? 熱出たこと聞いたんだね ありがとう』 相変わらず短い要件だけのメール。 『いいえ』 それだけ返すと席を立ち休憩スペースに向かった。 課の人達は自分が今週でいなくなることを知っていた。 それでも特に変わった態度もなく接してくれる環境に感謝をしている。 コーヒーを取り出すと 「聞いた?木崎さんインフルだって」 かけられたその声に振り向く。 「小川……」 「よ」 小川もコーヒーを買い長椅子に腰掛けた。 「大変だよね、この時期に」 「そうだね」 「羽山今週飲み行ける?」 「悪い、ちょっと無理かな」 「そ、じゃあまた来月。 落ち着いたら付き合ってよ」 黙って頷くと、小川はいつもの人懐っこい笑顔で笑う。 「しかし苦労しそうだなー」 肩をバシバシ叩かれた。 今はそれを不快だとも思わない。 「ちょっとは笑ったら? お前が笑えば事は解決するよ」 「そんな簡単に言うなよ」 「出来るだろ? 木崎さんだって『秘書』ちゃんとしてるらしいし」 「……」 「営業時代じゃ考えられないくらい表情筋使ってるんだってね、見たことないけど」 カツンとプルタブを引っ掻く音がした。 「先輩はやれば出来る子なんだよ」 「なにそれ、上からじゃん」 こんな風に遠慮なく話せる同期は小川だけだ。 こんな風に話すことも無くなると思うと、正直寂しい。 「小川」 「ん?」 「ありがとう」 「……」 驚いて、訝しがる表情を見せた小川は「はは」っと笑った。
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