第1章

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「もし骨にヒビが入ってたとしても、肋骨は安静にするしかないって話だから鎖骨もそうなんじゃないかな」 私は独り言のように呟いた。 「あんまり痛いようならちゃんと病院行きなよ?」 「……うん」 曖昧な返事を聞いて淳は小さく溜息を吐いて眉を下げた。 「病院行くのが嫌なら母さんかカズさんに相談したら?」 「……うん」 淳がキッチンから出て行くその背中を眺めていた。 ねぇ、羽山は元気? 会社で上手くやってる? 環境は悪くないの? 喉まで出かかった言葉が 音として外に出ることは無い。 足を手に入れた人魚姫が綺麗な声を奪われた話があった。 彼女もこんな風に 声に出せない言葉を喉元で押し出そうとしては、出来ない現実に失望していたのだろうか。 例えばそれを聞いたとして 私はどうしたいのだろうか。 元気だよ 上手くやってるよ 大丈夫みたい それを淳から聞いたところで どうなるというのだろうか。 私と決別して戻るべき場所へ行ったんだ。 私の事などもう既に 頭の片隅にもないのだろう。
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