第1章

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「ごめんなさい 大丈夫だから」 「……木崎」 「私は大丈夫だから 仕事はちゃんとするからっ」 「落ち着け、木崎っ」 「ごめんなさいっ 仕事をさせて、休みたくない」 「木崎」 低い声で名前を呼ばれた。 「お前もう、俺の家に来い」 初見に肩を揺さぶられ、私は口を閉じた。 「朝起きたら会社に連れて行くから 仕事終われば連れて帰るから うちのゲストルームなら人の気配は気にならないし、風呂もトイレもついてる。 リビングに出なければ俺とも会わずにすむから」 「……」 「だから家に来い」 毛を逆撫でた猫みたいな私をなだめる様に 「連れていくよ」 と、落ち着いた声で初見は言った。 エンジン音が全く聞こえない車内 黒くピカピカなボンネットの上を街灯が滑る様に流れて行く。 「木崎、思ってること口にしてよ そうじゃなきゃ色々動けない」 初見が前を向いたままそう言った。 前方の信号が赤くなり、初見の顔を赤く染める。 緩やかにスピードを落としていた車が止まる。 「たまには焼かせてよ、お節介」 「……」 「それにそんなんじゃ 羽山が悲しむよ」 その名前を聞いただけで鈍い痛みが胸を刺す。
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