第1章

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「木崎」 ハンドルを握りながら初見が私を呼ぶ。 返事をせずに視線だけむける。 「夜中に目が醒める?」 「……」 「食べ物を吐いたりしてる?」 「……」 「それ、一ヶ月続いてる?」 「……」 隠し事がばれたみたいに胃の上がひやりとする。 「そしたら産業医に診てもらったほうがいい」 初見は落ち着いた声で言った。 「……」 「社会人だから多少無理しても仕事するなんてのは誰だってある。 でも、 お前は潰れるために無理してるように見える」 「……」 「それは困る」 「迷惑はかけないようにするから」 そう口にして、今現在迷惑をかけている事に気付いた。 「ごめん」 「前にも言ったけど謝って欲しい訳じゃないんだよ」 「……」 「本当に潰れられたら困るんだ。 俺が上手くいってるのは木崎のおかげだ」 「言い過ぎだよ。 初見は凄いと思う」 「仕事は確かに実績が必要だけど、上手く回るにはそれだけじゃない」 「……」 「俺がいなくても誰かが変わりをする。 でも、俺にとって木崎の代わりになる人はいない」 「……」 「もっと自分を大事にしろ。 弱音を吐いたって愚痴言ったって 誰もお前を責めたりしない」 相変わらずこちらを見ないけど、初見の顔はずっと真剣だ。 「……なんか うん、ありがとう」 上手く言葉が返せない。 初見が私を評価してくれる言葉をくれたからなんだか頭を撫でられているような気恥ずかしさが胸に滲む。
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