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僕は初めて返事の手紙を書いた。できる限り短く、意味をこめて。
貴方が殺してほしいと願うのは勝手だが、僕は犯罪者になるつもりはない。こんな無駄な手紙を書くくらいなら舌でも噛み、死ねっ!! 死んでしまえっ!!
数日後、手紙の送り主、妻をあんなに追い込んだ犯人、先輩だったお姉さんは自分の舌を包丁で切断し出血多量で自殺した。遺書は残されていなかったが、何十通にも及ぶ謝罪の手紙が残されていたという。
最後の一文は、自分の切り落とした舌から流れる血液で部屋の壁に書かれていた。
生まれてきて、ゴメナサイ。死にます。
僕は笑った。死んだ。あんな手紙ごときで死んだのか。無様、滑稽で笑えてきた。僕の中で何かが壊れ、酒を呑み、後輩をベッドの上でいじめる。後輩の恍惚とした表情を苦悶に塗り替えたくて、汚したくて、壊したくて抱いた。
妻へのお見舞いに行くことは少なくなっていく。日に日にやせ衰えていく彼女を見ていたくなかったと言えば綺麗事だが、単に面倒になっただけだった。
心の中に生まれた悪魔が囁いた。
だったら殺してしまえ。その手で楽にしてしまえ、そのほうが誰もが幸せになれる。
迷いはなかった。病室のベッドに横たわる彼女の首筋に指を這わせ、力を込める。カハッと彼女が息を吐くがそれだけだ。大きく見開かれた目玉がギョロギョロと動き、涙が流れる。
また、泣いているのか、泣き虫なやつめ、でも、もう大丈夫、泣かなくていい。一生泣かなくていい世界に送っていってあげる。
力を込めていく。指先から伝わるのは彼女が生きている証だけれど、僕はそれを奪う。殺す。間接的にではなく、直接、この手で殺す。死に顔まで彼女は泣いていた。
「先輩」
暗闇に包まれた病室の扉が開き、看護師の後輩が入ってくる。相変わらずニコニコと笑っていた。白衣の天使なんて言われる看護師も、こうして見てみると悪魔に見えた。
「告発するのか、この僕を、ああ、したければそうすればいい」
「しませんよ。それよりも先輩、まだ
、やり残したことがあるじゃないですか」
「やり残したこと?」
「抱くんですよ。その人を、その人、処女だったんでしょう? そんなのは可哀想です。女として逝かせてあげるべきなのでは?」
「狂ってな、君は」
「褒めてもなにも出ませんよ。先輩。私はいつもの場所で待ってますから、早くきてくださいね。私が」
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