第1章

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どこかに行ってしまわないうちにと言い残し、後輩は病室を出て行った。 初めてだからとセックスをいやがった。彼女、新婚旅行なのに、別々の部屋で寝ると言っていた彼女はもういない。とうの昔に彼女は死んでいた。肉体だけを残して彼女の魂は死んでいた。そして今日、肉体も死んでいく。 薄汚れた僕と、死んだ彼女、ドクドクと心臓が高鳴り、死体になった彼女を僕はめちゃめちゃにした。 「ほら、ちゃんと同級生ルートでしたね」 「イヤイヤイヤ、まてまてまて、なにこれ、なぜこれ、なんで、こういう結果になるの? 最終的には同級生ルートかもだけど、彼女、死んでるじゃん」 あとおいしいところは後輩が、かすめ取っていくんだよな。お姉さんの末路を最悪だし。 「死んでなお、彼に愛されてるんですよ。彼は愛を貫き通したんですよ。いろんな意味で、処女でしたしね。うん、後輩の優しさが泣ける作品でしたね」 「泣けるっていうか、堕落させてるじゃん、あれだろ、これ、ほら寝取るってやつ。NTR、寝取られっ!!」 「私。難しいことわかりません」 「すっとぼけるな」 「先輩こそ、そういったマニアックな知識があるってことは意味を知ってるんですよね。なんだかんだ言いながら最後まで読んでたじゃないですか」 「俺は読者として感想を言わなくちゃいけないから最後まで読んだだけだ。マニアックな知識は、テレビ番組で知っただけだけど、それがなにか?」 「なんか、口が達者になってますね。まぁ、いいでしょう。次の後輩ルートに進みましょう。読者らしく感想をもらいたいですね。先輩」 「お、おう、どんとこいや」 後輩ルートの原稿用紙を開いた。 カツカツと足音が響き、鼻歌が聞こえてくる。楽しそうなのに、僕にはとても恐ろしい。 無駄だとわかりつつ、僕は薄汚れた床をかいたが、キッキッと肉が床に擦れる音だけする。僕の指先には爪がない、強制的に爪を剥がされているためだ。両腕に填められた鉄の錠につながれた鎖がカチャカチャとなる。何年もここにいるせいか両手足は枯れ枝のようにやせ衰え、歩くこともできないだろう。いや、ここから出ることはできないかもしれない。 叫び声をあげられないように喉を潰され、自害できないように歯を全て抜かれた。ああ、と嗄れた声が漏れて、心の中で言葉をもらす、来ないでくれ。その扉を開けないでくれ。 足音が扉の前で止まる。
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