第1章

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『負けたら罰ゲームです』 と、数日前、後輩と行った勝負を僕は思い出しながら下っ腹を抑えていた。数日前、僕と後輩は節分のやり残しとして、豆を食うことにしたが、その最中に後輩が豆を小皿に移し替える勝負をしようと言い出して、断る理由もなく受け入れて、僕は負けた。後輩だから華を持たせてあげたとか、わざと手加減したわけじゃない、本気でやって完敗したのである。彼女の綺麗な箸裁きや、豆移しの難しさを痛感させられ負けたが、まぁ、それはいい、負けは負けなんだから、問題は罰ゲームだ。 罰ゲームの内容はお願い事を三つだけ聞いてほしいという定番な内容だったが、その一つ目としてチョコレートの試食を数日間してもらうものだ。放課後、後輩の手作りチョコレートを食べるというものだったけれど、ここは先輩として快く引き受けようと見栄をはった結果、数日間、後輩の持ってくる大量のチョコレートを試食する羽目になった。夕飯だけではなく、朝飯も入らないほどの大量のチョコレートを腹に収めるのは苦痛でしかたなかったが、ニコニコ笑いながら美味しいですかと問いかけてくる、後輩にお腹いっぱいだからもう食べられないなんて言えない。 「そういえば、もう少しでバレンタインだったな」 僕とは無縁のイベントだ。バレンタインは恋人同士のイベント、彼女もいない僕には無関係だから今まですっかり忘れていた。 あの可愛らしくて、愛くるしい後輩にもチョコレートを渡したい相手がいるのかと思うとほんの少しだけ心がもやっとする。 ただの後輩の彼女を束縛する権利は僕にはない、放課後、雑談に華を咲かせることが多い僕らだけれど、先輩後輩、以上の関係じゃない。恋人同士でもなければ、付き合っていないんだから後輩に好きな人がいてもおかしくない。きっと彼女のこもだから僕をていよく使ってくれたものだなと悪態をつきながら、僕は脳内に後輩とのエッチな妄想に…………。 「あのね、後輩」 「何でしょう。先輩」 バレンタインが終わった数日後のいつものように放課後の教室のことだった。僕は原稿用紙に書かれた物語を読んでいた。 「僕は、豆移しの勝負に勝ったわけだよね。その罰ゲームとして、君の書いた物語を読みたいと言ったんだけど」 「はい、私の書いた物語ですよ」 「なんで、僕が主役になってるの?」 「先輩に読ませる物語なのに、先輩を主役にしないでどうするんですか
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