第1章

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お姉さんが悩んでいると知っても、何もできない僕は後輩の女の子に愚痴をこぼしてしまった。同級生は、こういった愚痴や陰口めいたことが嫌っているし、お姉さんと同じ職場のためそういったことが筒抜けてしまうかもしれない、そういうてんでは後輩の女の子は都合がよかった。 「最低だよな。僕」 「いえいえ、先輩はちっとも悪くありませんよ。そうやって隠し事めいた真似をするほうが悪いんです。私だったらいくらでも相談にのるので安心してくれていいですよ」 「ごめん、ごめんな、高校生のとき身勝手に振ったのに、お前はいつもいい奴だよな」 「大丈夫ですよ。先輩」 と後輩がニコニコと笑った直後のことだった。お姉さんが覚醒剤所持で警察に逮捕されたのだ。巡回中の警察官に職務質問され、覚醒剤を所持していたことが発覚し逮捕という流れになった。テレビのニュース、新聞でたびたび報道されていたけれど、まさか、自分の奥さんがそうなるなんて予想はできない。本人の自供によると、友人の相談にのっていたストレスでついやってしまったらしい。その友人というのが、同級生で、お姉さんが逮捕されると雲隠れするように行方知れずになった。 当然、夫の僕も疑いをかけられ、遠慮のない詮索をされ、記者達は僕のこと洗いざらい掘り返していく。 毎日がつらい、外に出るのが怖い。何をするにしても誰かに監視されていて、うしろめたいことをするたびに指摘されると思うとビクビクと震えた。 気がつくとお姉さんと、同じようにノートに目を落とすようになっていた。鋭く尖った鉛筆でガリゴリと文字を書き込んでいく。意味不明な文字の羅列、酒を呑んでは酩酊しトイレで吐き、仕事もやめて部屋に引きこもった。無精髭が生えて目は落ち窪んだ。 「先輩」 と、声がする。部屋に引きこもるようになった僕を助けたいと後輩の女の子が尋ねてくる。当初は彼女のことも拒絶した。罵倒と非難の言葉を投げつけ、暴力を振るったこともある僕をいつまでも世話してくれる彼女の優しさにいつのまにか浸るようになっていた。 「先輩は甘えん坊さんですね。膝枕が好きだなんて、もう」 「いいだろ。僕は寂しいんだ。お前までいなくなったら僕は、僕はどうすればいいんだ。わからないんだ」 「大丈夫ですよ。先輩、先輩の怖いものは私がぜーんぶ取り除いてあげますから、安心してください」 後輩の女の子がニッコリと微笑んだ
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