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「……………………」
読み終えた僕はそっと原稿用紙を閉じた。ニコニコと笑う後輩は言う。
「よかったですね。後輩と添い遂げられて、はい」
はい、じゃねーよ。
「あのさ、これ先輩ルートだよね。なんで先輩、逮捕されてるの? なんで同級生、悪人みたくなってるの? 先輩ルートなのに後輩とくっついてちゃダメでしょ。とんだバッドエンドだ」
「私は先輩ルートと言いましたけど、先輩エンドとは言ってませんよ。誰と付き合うか読んでみてのお楽しみです。ちゃんとしたハッピーエンドですよ。後輩と僕の幸せな世界じゃないですか」
「ハッピーエンドにしては、無くしたものが多すぎるし、後味が悪い」
なんだか、編集者になった気分だった。あと三つもあるのかと思うと気分が重い、帰りたい。もう読みたくない。
「では、同級生ルートにいきましょうか。ドキドキしますね」
「いろんな意味でね」
と言いながら僕は読む。
「ゴメンね」
ベッドに横たわる彼女が言った。僕は彼女の涙を拭いながらなんでもないよと笑ってみせる。彼女とは子供の頃から仲良しで高校生の頃に交際を始め、大学卒業後、就職、結婚した。同級生の女の子と幸せになれるそう思った矢先のことだった。
新婚旅行に行く途中、僕らは事故にあった。僕が運転する車に猛スピードで対向車が突っ込んできたのだ。幸いにも僕はかすり傷程度ですんだけれど、車の直撃を受けた彼女は重傷を負って命を取り留めはしても、手足一つ動かせない身体になってしまった。もう、彼女はこのベッドから起き上がることも、一人で食事や排泄することもできない。世話焼きで、乱暴だったけれど、心根は優しい彼女が今では世話をされる側にまわっている。
そのことを気にかけまいと、僕はあれこれを試し、道化のように振る舞ってみたが彼女は泣くばかりだった。お荷物になっているのが辛い、僕の人生を台無しにしてしまうのが嫌だ。夜な夜な泣きながら言葉を漏らす彼女に僕は何も言えなかった。
こんなになってしまっても僕は、彼女が好きだ。そういう気持ちがあるのに、彼女の涙を見てしまうと口にできなくなる。
また、来るよと病室を出ると、先輩とナース服に身を包んだ後輩の女の子がやってくる。彼女は看護師の道を選び、そして叶えた。こんなになった僕らを何かと支えてくれている。
「あまり思いつめないでくださいね。先輩まで倒れたら大変ですから
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