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私は、イタリアンレストランの個室にいる。
食べ歩きが好きな私が見つけた自慢のお店だ。
普段なら真っ先にメニューを広げる私がそうしないのは、対面に座る夫のせいだった。
高学歴の高身長、そして高年齢の高血圧。
私より二十も年上の彼は、二年前にオーダーメイドしたスーツを貫禄たっぷりに着こなしていた。
黒と銀が程よく混ざった頭髪は全て後ろに撫で付けられ、柔らかく刻まれた皺は端正な顔つきに温かみを添えている。
あまりの年齢差や彼の離婚暦に要らぬ心配をする人もいるが、実用性重視の私には関係ない。
お気に入りのメリケンサックがヴィンテージものだからといって、何を困ることがあるだろう。
気配り上手で優しくて、心から愛おしい。
それで充分だ。
あるとき夫は、残業続きでなかなか二人の時間を過ごせない私のために、手作りのペンダントをプレゼントしてくれた。
彼はいつだって私を驚かせるのが大好きだ。それ以来、同僚にからかわれるのも厭わず、肌身離さずつけている。
……そんな夫のサプライズに、今までは心から喜んでいたのだが。
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