第1章

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「で、三社面談の目的はなに?」 「別れてほしい」 間髪入れず返されて、思わず彼の顔を見返した。 「辛い目にあわせてすまなかったと思っている。夫として失格だよ。お前が望むなら、土下座でも何でもしよう。気の済むまで、殴って蹴って罵ってくれてもかまわない」 無駄にテンポが良い解決法だな、と夫の真顔を眺めながら思う。 「お前の傷を癒すためなら手を尽くそう。だから、どうか涙を飲んでくれ。父(てて)無し子を作るわけにはいかんのだ」 子作りしてから言うなよと思うのだが、これも夫が真剣なので言わずにおいた。 言ったからといって解決するわけではない。 とはいえ、じわじわと染みてくる離婚の二文字に、私はいつになく気が滅入った。 「私のこと、もう愛してないの?」 「そんなことはない。そんなことはないんだ」 首を振って、夫が必死に訴える。 「もちろんまだ愛している。だが……俺は、恭子君も同じように愛しているんだ。君は仕事も出来て収入もあるし、何より心が強い。しかし恭子君はどうにも弱いんだ。生まれてくる子供だって、父親である俺が守ってやらなきゃならん」 お前は強いから大丈夫だよね、というありふれた台詞は、お前なら傷つけても大丈夫だよね、ってのと同義だ。] だいたい既婚者の子を孕んで略奪婚なんて普通の神経じゃできないわけで、もし本当に彼女が弱いのだとすれば、それは頭だろう。
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