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「じゃあ教えて。この女とヤる前、悪いと思わなかった? 私のこと思い出して、やめておこうとは思わなかったの?」
「……申し訳ない」
「謝ってほしいんじゃないの。私が会社で残業して、あなたに会えなくてペンダントを撫でながら我慢してる間、あなたはどんな気持ちだった?」
ふた周り近く年下の女に問い詰められて、こうべを垂れるしかない夫。
おそらく彼は、いかに『ただヤりたい一心でした』を格好良く言うかということで頭がいっぱいなのだろう。
今すぐこのバカ旦那を『結婚相手はバカなくらいが丁度いい』だなんて言った田辺君と引き合わせたい。
「もうやめてよ」
しばらく黙っていた浮気女が、軽蔑したように言い始めた。
「だから雄治さんが安らげないの。確かに浮気したのは雄治さんだけど、浮気させたのはあなたよ。いい加減彼を苦しめるのはやめて!」
「……いいんだ恭子君、全ては俺の責任だ」
「だってだって、雄治さんが可哀想」
「恭子君……こんなふがいのない俺のために……」
なにこの茶番、と思いながらライターを取り出す。
火を点けようとしたところに、すっと紙を差し出された。
「というわけで、悪いがこれを書いてほしい」
雑な切り出し方で、ついに離婚届が登場した。
なにやら修羅場になるだろうなと思ってはいたが、まさかこんなものまで用意しているとは。
夫の欄はすでに記入されているという手際の良さからして、女の仕業だろう。
バカ旦那ではこうはいかない。
「書く前に、あなたに訊きたいことがあるんだけど」
私は、斜め前に座る女を見やる。
「この後、彼と結婚する気?」
「そうよ。ねっ?」
腕を組まれた夫が、気まずそうに首肯する。
「浮気する人は浮気を繰り返すって思わない?」
「あたしはあなたとは違うのよ。性格もファッションセンスも、女としての能力も、ね」
私たちに子供が出来ないのは置いておくとして、ブラウスにパンツスタイルの私はダサいのだろうか。
それとも、やはり小物がいけなかったのか。
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