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「稲垣を冷静な捜査官として高めたのは、妻の死が深く関わっておる。
おそらく稲垣は、今でも犯人を捕まえることをあきらめておらんのじゃろう。
それほど、やつの猟奇犯罪に対する捜査は徹底しておる。
やつに何を吹き込もうとしているか知らんが、わしのような心の歪んだ老いぼれと違って、固い意志の持ち主じゃ。
いくら悪魔といえども、一筋縄ではいかんじゃろうて」
さて、そんな老人の危惧をよそに、この話を聞いて、ラウムにはひとつの目論みがひらめいた。
生物としての、生理的な問題だ。
十年も一人やもめを続けているのだ。やつは女に飢えているのでないか?
磐座署の英雄として数々の殊勲を手にし、名誉は手に入れている。
金も余るほどもらっているだろう。
だったら、性欲だ。
その点をうまく探りだしてつっつくのだ。
変態趣味でも持ち合わせていたらこっちの思うつぼである。うまくやつ好みの女と引き合わせてやればいい。
願望や欲望の実現こそが、堕落への第一歩なのだから。
そこでラウムは、巧妙に老人をそそのかし、スクープを与えてやる代わりに、翌日その体を使わせてもらうことを約束させたのだった。
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