第2章

5/8
前へ
/37ページ
次へ
「稲垣を冷静な捜査官として高めたのは、妻の死が深く関わっておる。  おそらく稲垣は、今でも犯人を捕まえることをあきらめておらんのじゃろう。  それほど、やつの猟奇犯罪に対する捜査は徹底しておる。  やつに何を吹き込もうとしているか知らんが、わしのような心の歪んだ老いぼれと違って、固い意志の持ち主じゃ。  いくら悪魔といえども、一筋縄ではいかんじゃろうて」  さて、そんな老人の危惧をよそに、この話を聞いて、ラウムにはひとつの目論みがひらめいた。  生物としての、生理的な問題だ。  十年も一人やもめを続けているのだ。やつは女に飢えているのでないか?  磐座署の英雄として数々の殊勲を手にし、名誉は手に入れている。  金も余るほどもらっているだろう。  だったら、性欲だ。  その点をうまく探りだしてつっつくのだ。  変態趣味でも持ち合わせていたらこっちの思うつぼである。うまくやつ好みの女と引き合わせてやればいい。  願望や欲望の実現こそが、堕落への第一歩なのだから。  そこでラウムは、巧妙に老人をそそのかし、スクープを与えてやる代わりに、翌日その体を使わせてもらうことを約束させたのだった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加