第2章

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「おい、君」  受付の婦警に声をかけた。 「創世記新報の黒岩というものだが、稲垣刑事はどこかね? 取材の約束をしていたんだ。  心配しなくても、ちゃんと広報は通してある」  婦警は審査でもするように、気の強そうな視線で、老人を眺めた。  慌てて名刺を差し出してみたが、結果は不合格だった。 「残念ですが、稲垣刑事は重要な会議中です。日をあらためてお越し下さい」  それだけ言うと、婦警は書類に目を落とす。  署内に入った瞬間、殺気だった感情をいくつも感じていた。  何かただ事ではない事件が起こったのは、確かなのだろう。  だが、かといって、ここで帰るつもりなどなかった。 「昨日も忙しいと言って、今日の約束になったんじゃないか!?   三〇分でいい。ちゃんと取材させてくれ」 「申し訳ございません。あいにくですが、今日は本当に無理なんです」  丁重な言葉づかいだが、口調は硬い。 「おいおい、こんな老いぼれをいじめるなよ。こっちにも締め切りっていうのがあるんだ。  ここは天下の警察署だろう。約束はちゃんと守ってくれよ」 「申し訳ございません」  婦警は、頭を下げてはいるが、その目は冷たい。  ラウムは、わざと声を荒げた。 「こっちは警察の信用を高めようと思って、記事を書こうとしているのに、何だその態度は! そんなんだから、市民から嫌われるんじゃないのか!?」  婦警の顔に唾を飛ばすつもりで大声を出す。  まわりの警官たちも、彼女の方に目を向けた。  上司に頼るかと思いきや、婦警は半腰をあげて睨み返した。  負けじと、括舌のよい、大きな声で答える。 「市民の生活の安全を考えての、重要な捜査会議です。三流の新聞社の取材を受ける時間はございません!」  この婦警はいつもこんな調子なのだろう。  こちらを気にした警官たちの殺した笑いが見えた。  本気で腹が立ってきた。  そこでラウムは、その婦警にだけ見えるように顔を近づけ、ほんの一瞬だけ、己の本性をさらけ出した。  光彩に、血のような赤みが帯びた。  両目が凶悪な角度に吊り上る。  唇が、蛇のように割れた。  悪魔特有の、アルカイックな微笑を浮かべてみせる。  婦警の顔はまたたく間に青ざめた。
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