第2章

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「なあ、なんとかできるだろう? ほんの十分でいい。いくら重要な会議だといっても休憩ぐらいはあるだろうに」  婦警は口を開いたが、恐怖で悲鳴さえもあげることもできないようだ。  ケケケ。  いくら強がったって、しょせんは人間、憐れな下等生物だ。 「どうかしたんですか?」  後ろから、若い男の声がした。  顔を元に戻し振り向くと、茶髪が光り輝いた、色白の青年が立っている。  肩まである長髪だがよく整えられ、しわひとつないスーツとあいあまって清潔感すら漂わせている。 「藤丸刑事」  婦警の声が、嬉しそうに弾む。  恐怖が解かれた安堵からくるものだけではない、妙に色気のある響きだ。 「何か、問題でも?」 「あの、こちらの新聞社の方が、稲垣課長の取材がしたいとおっしゃって。大事な会議中ですから、無理だと申し上げたんですが」  婦警は、先程受け取った名刺を、藤丸という刑事に渡した。 「会議ならさっきすんだよ。課長なら、会議室に一人残って資料をあたってる。  そうだな、三十分くらいなら、取材をしてもらってもいいんじゃないかな」 「え、でも」 「大丈夫でしょ。  昨日、広報からも話しがあったみたいだし。それに今の課長は根のつめすぎだよ。少し気分を変えたほうがいいんだ」  藤丸と呼ばれた刑事は、黒岩に目を向けた。  睫毛も長く、端正な顔立ちである。  まるで赤子でもあやしているかのような、さわやかなほほ笑みを浮かべている。 「ということで、黒岩さん、稲垣課長なら五階の第三会議室で資料に目を通しているはずです。  いまちょうど休憩に入ったところですから、あまり時間はとれないですが、大丈夫だと思いますよ」 「助かります」  ラウムは軽く会釈をしたが、藤丸はもう老記者に興味を失ったのか、婦警の肩に手を添えて、耳打ちをしていた。 「ねえ、今度時間があったら一緒に映画を見に行かない? 実は先月公開されたポランスキー監督の新作、まだ見ていないんだよね」  婦警は、聞いている方が嫌になるほど声を弾ませて、 「もちろん、私で良ければ喜んで!」  などと答えている。  さっき俺様が与えた恐怖はどこにいったんだ?  なんとなくこの男は嫌いなタイプだと思っていたら、唐突に、藤丸は振り返った。
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