第3章

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 名刺を差し出しながら、ラウムは自己紹介をする。 「創世期新報の黒岩です。稲垣光志郎刑事ですね?」  稲垣はすぐに答えずに、差し出された名刺を受け取り、しばらく見比べた。  その間、ラウムも稲垣を観察する。   短髪にうっすらと武将髭の生えた、精悍な顔つきである。  鍛練のたまものだろう、痩身で野性味をおびた浅黒い肌は、とても四十過ぎのものとは思えない。  黒い大きな瞳は存在感十分で、並の犯罪者だったらそれだけで観念してしまいそうなほどである。  が、といってもしょせん、それも人間ならの話だ。  悪魔にしてみれば存在としての格が違う。  いくら風格があっても人間にとって犬や猫は愛玩動物。  それと同じようなものである。 「たしかに、私が稲垣ですが、残念ながら取材はお受けできません。わざわざ来ていただいて申し訳ないですが、お引取りいただいてよいですか」  老人の身元がわかったからか、稲垣は低姿勢な言葉遣いである。  受付の婦警と違って、三流新聞社に対しても横柄な態度をとらない。なかなか見上げた奴じゃないか。 「藤丸刑事から、休憩中だから一時間程度ならと、取材の許可をいただいたんじゃ。  それに老体に鞭打って五階まで階段を昇ってきたんですぞ。  少し座るくらいよいじゃろう?」  ラウムは、エレベーターのエの字も口にせず、時間のさばを加えたうえ、向かいの座席に早々と腰を落ち着ける。 「いやあ、しかしあれですなあ。  署内のこのぴりぴりとした雰囲気、なにか大きな事件でもあったんですかなあ?」  鞄から手帳を取り出しながら、ここぞとばかりに満面の笑みを稲垣に向ける。  この態度にどう反応するかと思っていたら、藤丸君がそう言ったのなら仕方がないと、稲垣はあっさり取材を受け入れてくれた。
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