第3章

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するとドアがノックされ、藤丸が、よそ風のような軽やかさで入ってきた。   ラウムは、目を覆いたくなった。  若い刑事は手に紙袋を持ち、お待たせしましたと笑顔で言うと、その中から缶コーヒーと、「ボッカ・デラ・ヴェリタ」の新作ケーキ、「乙女の宝石」を机の上に並べ始めたのだ。 (そんなもん持ってくんなよ) 「署の近くにおいしいケーキ屋さんがありましてね、そこで買ってきたんです。  洒落たお店の名前でしてね。  ほら、『ローマの休日』に嘘をつくと噛み付くという石像が出てきたでしょ?   『真実の口』っていうんですけど、スペイン語でその『真実の口』っていうのが店の名前なんですよ」  藤丸は、やけに嬉しそうである。 「あそこの主人、オードリー・ヘップバーンのファンなのかなあ」  ラウムにとっては、オードリー・ヘップバーン以上の魅力を持って、フルーツの貴婦人たちが誘惑している。  私を食べて、と甘い香気を発散させて、口の中に唾液の泉を涌きあがらせる。  「さあさあ、黒岩さん、食べてください」  藤丸は大口を開けて、「乙女の宝石」を頬張り始めた。  稲垣も、少しづつフォークで口に運び、食べ始める。 「あ、では。……い、いや、いやその、甘いものは、い、医者に止められていますので」  視線の方は、柔らかく尖端が曲がった生クリームにくぎづけになりながらも、ラウムはなんとかそう断る。 「そうなんですか。それは失礼しました。それじゃあ、もったいないので僕が」  と言って、藤丸は目の前で二つ目のケーキを口にしようとした。  と、その腕を、思わずラウムは掴んでしまった。 「どうかしたんですか? やっぱり、黒岩さんが食べられます?」 「ふ、ふふふふっふふふ藤丸刑事、けけけ、けけけケーキにもたたた食べる作法と言うのがあるんんんですぞぞう」 「ほう。どのような?」  「よいですかな。ケーキとはデザート。デザートとは、楽しんで食べてなくてはならんのです。そのように丸呑みして食べるのは邪道この上ない!」  ラウムは、真剣に語り始める。
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